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「年収の壁」とは?政府の対策で何が変わるの?分かりやすく解説!

  • #時事

掲載日:2024年2月27日

2023年10月から「年収の壁・支援パッケージ」という政策がスタートし、これまで以上に「年収の壁」というワードに注目が集まっています。この記事では、100万円・103万円・106万円・130万円・150万円・201万円といった各年収の壁に関する基本や「年収の壁・支援パッケージ」の内容についてわかりやすく解説します。

この記事は8分で読めます!

1. 年収の壁とは

年収の壁とは、税金や社会保険料の負担が生じることにより、手取り額が減少する可能性がある年収のボーダーラインのことです。言い換えると、年収の壁を超えなければ、税金や社会保険料の負担が増えることはありません。年収の壁には、「税制上の壁」と「社会保険上の壁」の2種類があります。

1.1「税制上」の年収の壁

税制上の年収の壁には、100万円・103万円・150万円・201万円の4つがあります。これらの年収を超えると、税金の負担が増えることになり手取り額が減少するでしょう。年収の壁にかかわる税金としては、主に所得税と住民税が挙げられます。

1.2「社会保険上」の年収の壁

社会保険上の年収の壁には、106万円と130万円の2つがあります。これらの年収を超えると社会保険料の負担が増え、手取り額が減少する可能性があります。

年収額ごとの税金および控除
年収 住民税 所得税 社会保険料 配偶者控除 配偶者特別控除
100万円以下 かからない 対象 対象外
100万円超 かかる かからない
103万円超 かかる かからない 配偶者特別控除に切り替わる 対象
106万円以上 条件を満たす場合はかかる
130万円以上 かかる(60歳以上や障がい者の場合は180万円以上)
150万円超 控除額の縮小
201万円超 対象外

2. 年収の壁は6つに分けられる

税制上の壁と社会保険料の壁を合わせると、年収の壁は6つあります。ここでは、各年収の壁の概要について具体例を紹介しながら解説します。

2.1 100万円の壁

パートやアルバイトで給与収入がある人は、年収100万円以下なら住民税がかからないため、年収が増えるほど手取り額が増えます。しかし、年収100万円を超えると住民税の負担が生じることから、手取り額が減少する可能性があります。

そもそも住民税とは、住所がある地域の都道府県・市区町村に支払う税金のことです。前年の所得に応じて課税される「所得割」と、所得にかかわらず定額で課税される「均等割」を合計して計算します。

実際に、東京都に住んでいて、年収102万円の場合の住民税を計算してみましょう。

<所得割>

年収102万円−給与所得控除55万円−住民税の基礎控除43万円=4万円
4万円×住民税の税率10%=4,000円

  • 東京都の所得割の標準税率は区市町村民税が6%、都民税が4%の計10%です。

<均等割>東京都民の場合

区市町村民税3,000円+都民税1,000円+森林環境税1,000円=5,000円

【個人住民税】

所得割4,000円+均等割5,000円=住民税9,000円

上記の計算により、年収102万円から住民税9,000円を引いた101万1,000円が手取り額となります。

2.2 103万円の壁

パートやアルバイトで働いている人の年収が103万円を超えると、所得税が課税されます。そのため、103万円までは年収が増えるほど手取り額も増えますが、年収103万円を超えると所得税の負担が生じて、手取り額が減少する可能性があります。

所得税について、年収105万円の事例で計算してみると、以下のようになります。

年収105万円−給与所得控除55万円−所得税の基礎控除48万円=2万円
2万円×所得税の税率5%=所得税1,000円

年収が103万円を超えて105万円になった場合、1,000円の所得税が発生し、手取り額が104.9万円となります。

2.3 106万円の壁

以下の要件を満たすパートやアルバイトの人は社会保険の加入義務が生じるため、社会保険料がかかります。以下の要件の一つである「賃金が月額8万8,000円」を年収に換算すると約106万円になるため、「106万円の壁」といわれています。

  • 勤務先の従業員数が101人以上
  • 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
  • 勤務期間が2ヵ月を超える見込みがある
  • 学生ではない
  • 賃金が月額8万8,000円以上
  • 「勤務先の従業員数が101人以上」は、2024年9月末までの要件です。2024年10月以降は51人以上となります。

たとえば年収100万円の人は社会保険料の負担が生じませんが、年収106万円の人は健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料がかかります。

社会保険料について健常者、東京都在住、同一生計配偶者および扶養親族なし、40歳以上65歳未満、年収106万円のケースで計算してみましょう。

健康保険料10.0%+介護保険料1.82%+厚生年金保険料18.3%=社会保険料30.12%
106万円×社会保険料30.12%=約32万円

  • 介護保険料は、40歳から64歳までの介護保険第2号被保険者の方が支払い対象です。

社会保険料は従業員と勤務先で半額ずつ負担するため、約32万円の半分の約16万円が従業員の社会保険料となります。さらに、このケースでは所得税はかかりませんが、住民税の均等割5,000円がかかるため、年収106万円から社会保険料約16万円と住民税5,000円を引いた約89.5万円が手取り額です。

なお、要件の一つである所定労働時間は実際の勤務時間ではなく、就業規則などで定められた勤務時間のことを指します。また、月額8万8,000円の賃金には、交通費や残業代は含まれません。

2.4 130万円の壁

年収130万円を超えると、家族の扶養から外れます。そもそも扶養とは、親族から経済的な援助を受けることです。扶養から外れるということは、自身で国民健康保険や勤務先の社会保険に加入する義務が生じることになります。

月収に換算すると約10万8,333円が目安となりますが、勤務先によってはこの金額を超えても直ちに扶養から外れない場合もあります。年収130万円に近い人は、扶養認定の基準について勤務先に確認しておきましょう。

なお、130万円の壁には交通費も含まれるため、106万円の壁とは混同しないように注意が必要です。

2.5 150万円の壁

自身の年収が150万円を超えると、家族の配偶者控除が減少するため、結果的に所得税・住民税の負担が増えます。

たとえば年収150万円の場合、家族の配偶者控除は38万円ですが、年収160万円になった場合の家族の配偶者控除額は31万円です。配偶者控除額が減額するため、結果的に家族の所得税・住民税の負担が増加することになります。

また、家族の年収が900万円を超えている場合も、配偶者控除・配偶者特別控除が減額あるいは全く受けられなくなるため注意しましょう。

2.6 201万円の壁

150万円を超えると配偶者控除特別控除が段階的に減少していき、201万円を超えると配偶者特別控除がゼロになります。

201万円は配偶者特別控除が全く受けられなくなるボーダーラインであることから、「201万円の壁」といわれています。

3. 政府の「年収の壁」対策とは?何が変わるの?

日本では、物価高にもかかわらず賃金が上がらないことにより家計が圧迫され、年々ゆとりのある生活が送れなくなっていることが社会問題となっています。また、企業側も深刻な人手不足に悩まされているのが実状です。

しかし、長時間働いて収入を増やしたい、人手不足を解消したいと考えても、年収の壁の存在によって税金や社会保険料の負担が増えるため、パートやアルバイトの人が就業時間を抑えてしまうという問題がありました。

そこで政府は2023年10月から、パートやアルバイトの人でも年収の壁を意識せずに働ける施策として「年収の壁・支援強化パッケージ」を打ち出しました。同パッケージは「106万円の壁」と「130万円の壁」に対応したものです。

106万円の壁に対する施策としては、労働時間が増えたことで社会保険料が減少しても、手当の支給などで従業員の手取り額を減らさない措置を取った企業に対して国が助成します。

130万円の壁に対する施策としては、労働時間が増えて収入が一時的に上昇しても、事業主の証明により引き続き被扶養者認定が可能となります。

こうした「年収の壁・支援強化パッケージ」の導入により、パートやアルバイトの人が就業時間を気にせずに働いて収入を増やすことができるようになりました。また、これまで人手不足に悩んでいた企業も人材確保がしやすくなるでしょう。

しかし「年収の壁・支援強化パッケージ」は2025年までの暫定的な措置です。それ以降も同パッケージが継続するかは不透明である点については念頭に置いておきましょう。

4. まとめ

年収の壁は100万円の壁、103万円の壁、106万円の壁、130万円の壁、150万円の壁、201万円の壁と6つの種類があります。年収の壁を超えると、税金や社会保険料の負担が生じ、手取り額が減少する可能性があります。これまで年収の壁により、企業側は人手不足に悩んでいるにもかかわらず、パートやアルバイトの人が労働時間を抑えてしまうというミスマッチが生じていました。

しかし、2023年10月から導入された「年収の壁・支援強化パッケージ」により、こうしたミスマッチの解消が期待できます。ただし、あくまでも2025年末までの措置であるため、今後の動向には注視していく必要があるでしょう。

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