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為替介入とは?仕組みや目的、過去の実例を紹介

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掲載日:2024年8月13日

2024年4月に34年ぶりの水準となる1ドル160円台をつけました。また、4月末から約1ヵ月間にわたって日銀による為替介入が行われ、大きくドル円の為替レートが動いたことから不安を感じた人もいるでしょう。この記事では為替介入とは何か、仕組みや目的、過去の実例や今後の為替介入の可能性について解説します。

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1. 為替介入とは

為替介入の正式名称は「外国為替平衡操作」といい、為替相場の急速な変動を抑え、その安定化を図ることを目的としています。円の価値が外貨に対して相対的に安くなれば「円安」、高くなれば「円高」ですが、どちらも過度に進行すると経済が混乱してしまいます。

例えば、毎月1万ドルで海外から商品を仕入れている事業者がいるとします。1ドルが120円の場合、120万円あれば1万ドルと交換可能です。しかし、1ドル150円と円安になった場合は150万円が必要となり、30万円の追加コストが発生します。

次に、毎月1万ドルの商品を海外で売上げている事業者がいるとしましょう。1ドル150円の場合は、150万円の売上となります。しかし、1ドル100円の円高となった場合は、100万円の売上となり、1ドル150円の時と比べて売上が50万円減ります。ここでは事業者を例に紹介しましたが、為替レートの急変により、家計にも悪影響を与える可能性があります。これを緩和するための1つの方法が為替介入です。

急速な円高が起きたときは「円売り介入」を行い、急速な円安が起きたときは「円買い介入」を行います。

また、「口先介入」という、実際には通貨の売買をせず、政府や中央銀行の関係者が為替に関するコメントをすることで為替レートに影響を与えようとする方法もあります。口先介入も為替レートに一定の効果を与えますが、効果は限定的です。

2. 為替介入の歴史

1998年以降に行われた為替介入実績は、以下の通りです。

財務省統計表一覧(外国為替平衡操作の実施状況)
実施時期 金額(億円) 売買通貨
1998年 30,470 米ドル売り・日本円買い
1999年 70,487 米ドル買い・日本円売り
5,923 ユーロ買い・日本円売り
2000年 29,576 米ドル買い・日本円売り
2,155 ユーロ買い・日本円売り
2001年 31,455 米ドル買い・日本円売り
652 ユーロ買い・日本円売り
2002年 39,924 米ドル買い・日本円売り
238 ユーロ買い・日本円売り
2003年 202,465 米ドル買い・日本円売り
1,785 ユーロ買い・日本円売り
2004年 148,314 米ドル買い・日本円売り
2010年 21,249 米ドル買い・日本円売り
2011年 142,970 米ドル買い・日本円売り
2022年 91,880 米ドル売り・日本円買い
2024年(6月末時点) 97,885 米ドル売り・日本円買い

直近では2024年4月26日〜5月29日の間に約9兆円の覆面介入が行われ、1990年ぶりの水準となった円安を抑え込むことに成功しています。覆面介入とは介入直後に実施を公表しない為替介入のことです。

以下、過去の為替介入のうち代表的なものを紹介します。

【1998年】
バブル崩壊後、大手金融機関や証券会社が相次いで破綻し、金融危機を迎えていました。そして日本は長い景気低迷期に入ります。日米の金利差も拡大していたことから急速に円安が進行しました。日銀は円安を抑えるために、大規模な円安介入に踏み切ります。

【2001年】
アメリカで同時多発テロが発生し、急速に円高・ドル安が進行しました。日銀は2001年9月に、約3兆円の為替介入を行いました。

【2003年】
アメリカは財政収支の赤字と経常収支の赤字、いわゆる「双子の赤字」を抱え、米ドルの信用力が低下したことにより急速な円高・ドル安が進行しました。円高を是正するために大規模な為替介入を行いましたが、すぐには効果が表れず、2004年まで大規模なドル買い・円売りが実施されています。

【2011年】
2011年は東日本大震災により日本経済が大打撃を受けていました。本来であれば、輸出企業の打撃から円安が予想されていましたが、結果は逆でした。保険会社は、震災による多額の保険金支払いのために円を大量に買い集め、海外投資家はリスク回避のために日本株や債券などの海外資産を売却し、円に換えたと考えられています。その結果、急速な円高となりました。その後日銀は、円高是正のため、覆面介入に踏み切っています。

【2022年】
アメリカではコロナ禍からの脱却が進み、経済活動が正常化に向かうことで物価が上昇しました。物価上昇を抑え込むために、コロナ禍の中で継続していたゼロ金利政策を解除しました。しかし、日銀は緩和政策を継続していたことから、円安が進行し、これを受け日銀は約6兆円規模の為替介入を実施しています。

3. 為替介入のメリット・デメリット

日銀が為替介入をすると、どのような影響があるのでしょうか。メリット・デメリットについて解説します。

3.1 メリット

為替介入により、過度な円安や円高を抑制することで、政策や経済、家計の安定に寄与するメリットがあります。

例えば、日本はエネルギー自給率や食糧自給率が低く、輸入に頼っている国です。そのため極端な円安は、日本のエネルギー価格や食料品の価格の高騰を招いてしまう可能性があります。「円買い介入」をすれば円安の値動きは抑制され、輸入品の価格上昇を抑える効果が期待できます。

一方、極端な円高は、日本の輸出業の国際競争力低下を招きかねません。円高が進行している局面では、「円売り介入」を行うことで円高の値動きが抑制されます。

3.2 デメリット

日本の場合は、財務省所管の外国為替資金特別会計(外為特会)の資金が為替介入に使われています。そのため為替介入の資金には限りがあり、頻繁にできるわけではありません。

ドル円の場合、円高に対応するために「ドル買い・円売り介入」をするときは、政府短期証券(FB)を発行してドル資金を調達します。一方、円安に対応するために「ドル売り・円買い介入」をするときは、外為持会で保有するドル資金を売却し、円を買い入れる仕組みです。

もし、為替介入の効果が出ないうちに資金が枯渇すると、これまでの介入効果が帳消しになってしまう可能性があります。その結果、円高・円安が継続し、経済や家計が不安定な状況が継続してしまいます。
為替介入は為替レートに大きな影響を与えるため、諸外国に配慮したうえで実施しなければなりません。場合によっては、為替介入に対して諸外国から批判を受けることがあります。実際にアメリカのイエレン財務長官は2024年5月4日に「為替介入がまれであることを願う。」と日本の為替介入をけん制するコメントを出しています。

4. 今後のポイント

日米の金利差拡大により、依然として歴史的な円安水準が続いています。

現在アメリカの政策金利は据え置きが継続しており、2024年度中には1回程度の利下げが見込まれています。一方、日銀は2024年3月の金融政策決定会合で、マイナス金利解除を決定。追加利上げを行う可能性について植田和男日銀総裁は「十分あり得る」と述べているため、今後は日米の金利差が開いて大きく円安に向かう可能性は低いと考えられます。

ただしアメリカの経済指標は、依然として景気の底堅さを示す内容も多く、2024年度中の利下げがなくなったり、一転して利上げに向かったりする可能性もゼロとはいえません。

アメリカの強い経済指標をきっかけに利下げ期待が後退すると、再度円安に向かい為替介入が必要になることも十分考えられます。

5. まとめ

為替介入には過度な円安を抑制するための「円買い介入」と、円高を抑制する「円売り介入」があります。現在、ドル円は歴史的な円安水準にありますが、かつては円高を是正する目的で為替介入が行われたこともありました。

このように為替レートは長い目でみれば大きく変化をしています。為替レートの変動は家計にも影響を与えるため、日頃から為替に関する情報へのアンテナを高くして対策を立てておきましょう。

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