【令和7年度施行】雇用保険法等改正とは?改正の内容と影響を解説
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掲載日:2024年10月28日
令和6年5月10日に「雇用保険法等の一部を改正する法律」、同年6月5日に「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」が国会で可決されました。当法律は令和7年から施行されます。この記事では、今回の雇用保険改正のポイントや、改正による影響について解説します。
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1. 雇用保険制度とは
雇用保険制度とは、労働者の生活や雇用の安定、就職促進のために必要な給付を行うとともに、失業の予防・雇用状態の是正・雇用機会の増大・労働者の能力の向上を図ることを目的とした制度のことです。以下の内容を行っています。
- 失業等給付
労働者が失業、あるいは雇用の継続が困難な事由が生じたときに、生活や雇用の安定を図る目的で支払われる給付のこと。生活や雇用の安定を図ることが目的であり、求職者給付・就職促進給付・教育訓練給付・雇用継続給付の4つがある。 - 求職者支援事業
雇用保険を受給できない求職者が就職活動をするなかで、ハローワークが必要と認めた場合に限り、無料で求職者支援訓練を受けられる制度。一定の要件を満たせば、受講中に給付金も受給できる。 - 育児休業給付
雇用保険の被保険者が、育児休業を取得したときに支払われる給付。 - 雇用安定事業・能力開発事業
失業の予防、雇用機会の増大、労働者の能力開発や向上を図る事業。
現在は働けていても、失業で収入が途絶えたり、育児や介護による休業で収入が減少したりするケースもあるでしょう。そのような状況では、雇用保険からの給付が受けられるため、万が一のことが起きても労働者は安心して生活できます。
2. 雇用保険の法改正に至った流れ
雇用保険はその時々の雇用情勢に応じて、法改正が繰り返し行われています。ここでは、これまで行われた雇用保険制度の改正時期や、主な改正内容について振り返ってみましょう。
2.1 法改正をめぐるうごき
平成28年~令和2年の改正は、育児休業や介護休業制度の見直しなど労働者の離職防止や再就職を促進するもの、あるいは高年齢者の雇用推進を目的とした改正内容となっています。
令和2年には特例法が制定され、新型コロナウイルスの影響に対応するための改正が行われました。さらに令和4年の改正では、新型コロナウイルスの影響で働けない労働者向けの支援延長や、インターネットによる求人活動のルール整備などが盛り込まれています。
改正および制定年度 | 主な改正内容 |
---|---|
平成28年度 | 雇用保険料率の引き下げ、介護休業給付の給付率の引き上げ、65歳以上の方への雇用保険の適用対象の拡大など |
平成29年度 | 雇用保険料率の引き下げ、基本手当の拡充など |
令和2年度 | 高年齢雇用継続給付の給付率の見直し、複数の事業主に雇用される65歳以上の労働者に対する雇用保険の適用など |
令和2年特例法 | 新型コロナウイルスの影響で休業させられた労働者に対する休業支援金の支給や、基本手当の給付日数の延長など |
令和4年度 | 雇用の安定と就業の促進を図ることを目的とした、失業給付に係る暫定措置の継続など |
3. 雇用保険法等改正の具体的な改正点
令和6年度の雇用保険法等改正では、多様な働き方を支えるため、雇用のセーフティネットの構築や「人への投資」の強化が図られています。さらに、育児休業給付を支える財政基盤の強化も進められています。
3.1 雇用保険法等改正について
本改正法のポイントは、大きく以下の4つに分けられます。
- 雇用保険の適用拡大
労働者の働き方や生計維持の方法が多様化していることを踏まえて、雇用保険の被保険者の要件について、週所定労働時間を「20時間以上」から「10時間以上」へと引き下げ。さらに適用対象を拡大。 - 教育訓練やリスキリング支援の充実
個人の主体的なリスキリング等への支援を強化・推進するため、厚生労働省指定の教育訓練を受講・修了した場合に、その費用の一部を支給する教育訓練給付金の給付率の上限を70から80%に引き上げ。 - 育児休業を支える財政基盤の強化
男性の育休取得の増加に対応するために、国庫負担の割合を現行1/80から本則1/8に引き上げ、育児休業給付を支える財政基盤を強化させる。
また、保険料率を現行の0.4%に据え置きつつ、令和7年度から本則料率を0.5%に引き上げ、実際の保険料率は保険財政の状況に応じて弾力的に調整できるようにする。
- その他雇用保険制度の見直し
雇止め(契約更新をせずに雇用関係を終了すること)による離職者の基本手当給付日数に係る特例・地域延長給付を、教育訓練支援給付金の給付率を60%と設定したうえで、2年間延長。
また、現行の就業促進手当として支給されている就業手当・再就職手当・就業促進定着手当のうち、就業手当が廃止。就業促進定着手当の上限を20%に引き下げる。
3.2 子ども・子育て支援法等改正
令和5年に子ども・子育て政策を抜本的に強化する「こども未来戦略」が閣議決定されました。こども未来戦略では、将来的な子ども・子育て政策の大枠に加えて、集中取組期間(令和6年から3年間)に実施すべき「加速化プラン」の内容が示されています。
加速化プランに盛り込まれた施策を確実に実行するために、子ども・子育て支援法等が改正されました。そのうち雇用保険に関連するものは、出生後休業支援給付の創設と育児時短就業給付の創設の2点です。
- 出生後休業支援給付
子の出生直後の一定期間内(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)に被保険者とその配偶者の両方が育児休業を14日以上取得した場合、28日間を限度に休業開始前賃金の13%相当額が支給されます。
現行の育児休業給付(賃金の67%)と合わせると、給付率が80%になる仕組みです。さらに給付は非課税であり、育休中は一定の要件を満たすことで社会保険料も免除されるため、実質手取り額の10割相当となります。
また、配偶者が専業主婦(夫)や、ひとり親の場合には、配偶者の育児休業の取得を求めずに支給します。
- 育児時短就業給付
被保険者が、2歳未満の子を養育するために時短勤務をした場合には、時短勤務中に支払われた賃金の10%を支給します。
4. 雇用保険法等改正による影響
これまでの雇用保険は、家計を支える生計維持者を主な対象としていました。しかし近年では、共働きや複数の仕事を掛け持ちしている方も増えています。今回の改定は、そうした多様な働き手の生活と雇用の安定に寄与する制度と言えるでしょう。
一方、企業側は多様な働き方に応じていかなければなりません。改正内容や日程を理解し、適切な対応をしていくことが求められます。特に「雇用保険の適用拡大」により、対象者が急激に増加する可能性があります。そのため、人事労務担当者は書類や工程を見直すなどして、手続き件数の増加に備えておく必要があるでしょう。
また、出生後休業支援給付や育児時短就業給付の内容を理解し、日数や適用要件などについて該当者に適切なアドバイス、サポートを提供することも求められます。
5. 施行日等
令和6年度の雇用保険法等改正では、多くの改定が行われますが、それぞれ時期が異なります。下記に各改正事項の施行日についてまとめましたので、参考にしてください。
改正内容 | 施行日 |
---|---|
教育訓練やリスキリング支援の充実 | 令和年6年4月1日 |
育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保 | 国庫負担割合の引き上げ・・2024年5月17日 保険料率の見直し・・・令和7年4月1日 |
その他雇用保険制度の見直し | 令和7年4月1日(一部は5月17日に施行) |
出生後休業支援給付の創設 | 令和7年4月1日 |
育児時短就業給付の創設 | 令和7年4月1日 |
雇用保険の適用拡大 | 令和10年10月1日 |
6. まとめ
雇用保険制度は、その時々の雇用情勢を考慮して、改正が繰り返し行われています。令和6年度の雇用保険制度の改正では、多様な働き方を支えるセーフティネットの確立や「人への投資」の強化、子ども・子育て支援法等の改正が主なポイントとなっています。
働き手側は、雇用保険制度の改正内容を理解して、上手に活用できるライフプランを立てることが大切です。一方、雇用する側は、業務内容や手続きが大幅に変わることが考えられるため、早めに改正内容の周知し、準備しておく必要があります。
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